【パイロットが解説してみた】飛行機の出発〜到着まで

用語解説

みなさんこんにちは!エアライン機長のGOROです👨‍✈️

前回まで全4回にわたりアプローチ編ということでアプローチを4種類ご紹介致しました。アプローチとは飛行機が滑走路に向かって最終的に降下、進入していくフェーズのことです。

飛行機が出発地の搭乗ゲートを出発してから、目的地の到着ゲートに到着するまでには他にもフェーズがありますので今回はそれをご紹介したいと思います。

空港からの出発

プッシュバック

駐機場に止まった飛行機は頭を空港のターミナルに向けて駐機しています。通常は最前方左側のドア、大型機でしたら最前方左側と1つ後ろの左側のドアと合わせて2箇所から乗り降りしたりします。これは空港のボーディングブリッジの仕様によるところです。

左側から乗り降りするのは、船が左側を接岸させる慣習を受け継いでいるようです

右側のドアは機内食や備品を搭載する時に使用されています。

飛行機は自力ではバックできないので、トーイングカーという車両に押し出してもらいます。

飛行機は自力ではバックできない。

飛行機は空港内で動かすのに全て管制官の許可が必要です。パイロットは飛行機の出発準備が整ったら管制官に無線で許可をもらい、許可がもらえたら地上スタッフに連絡してプッシュバックしてもらいます。通常プッシュバック中にエンジンをスタートします。

タクシー

プッシュバックが終われば、また管制官に許可をもらって飛行機は前進していきます。これをタクシーと呼んでいます。飛行機がタクシーする道をタクシーウェイ(誘導路)と呼びます。

タクシーウェイはガイドサインという看板が脇にありますが、操縦席から見ればとても小さく見えます。車の道路のようにわかりやすい道案内の看板もないのですし、カーナビも飛行機にはありません。管制官が無線で指示したルートを外部の看板やレイアウトとチャートを見比べてタクシーするという作業になりますので間違えないようにパイロットはかなり気を使っています。

羽田空港のタクシウェイのチャートの一部 AIPより

フライト中に離着陸に次いで気を使うフェーズがタクシーです。

タクシーウェイに段差があれば結構「ガツン」とショックがありますし、重いので加速するのに時間がかかりますし止まるのにも時間がかかります。タクシーは想像以上に難しいフェーズです。

離陸、テイクオフ

管制官の指示に従い無事に滑走路まで辿り着き、離陸許可をもらったら飛行機は離陸して行きます。

離陸する時の飛行機の高なるエンジン音と加速感に緊張されるお客様も多いと思いますが、それはパイロットも同じです。

何度やっても離陸の時は緊張感が走る。

エンジンの出力はその時の気温、気圧、風、飛行機の重量や重心位置をもとにコンピュターで計算した最適なエンジン出力を飛行機に設定して離陸します。そのコンピューターが計算したV1という速度までに重大なトラブルが発生したら離陸を中止、V1以降であればたとえエンジンが1つ故障しても離陸を継続し飛び上がる決まりです。V1以降であれば、エンジン1つでも離陸できる能力が飛行機にはあります。

なぜV1の前と後で分けているのかというと、V1以前であれば停止操作しても残りの滑走路で止まれるだけの距離があるからです。V1以降であれば残りの滑走路の距離では停止できないので飛びあがる方が得策だという考えです。

飛行機が加速して浮かび上がるまでどんな僅かな異変も見逃さないぞ!という緊張感を持って離陸しています

上昇 Climb クライム

飛行機が離陸してから巡航高度に向けて上昇していくことをClimb/クライムと呼びます。上昇のフェーズは大きく分けて2つに分かれます。滑走路から離陸してすぐはSIDという経路に沿っての上昇になります。SIDの終点を過ぎれば巡航高度に向けて航空路を上昇していくという流れです。

下図のように離陸→SID→航空路という流れで飛行機は上昇していきます。

離陸→SID→航空路へとつながっていく

SID (Standard Instrument Departure/標準計器出発方式)

パイロットは「エスアイディー」と読むことがほとんどですが、管制官は無線の中では「シッド」と言ってくることもあります。

「エスアイディー」も「シッド」もどちらも正式な用語として認められています

SIDは高速道路の一般道から高速本線につながるインターチェンジのようなイメージです。滑走路から離陸した飛行機(=高速入口を入ってきた車)を航空路(=高速本線)へとつなぎます。インターチェンジのように飛行機もSID内でスピードを上げて航空路に合流して行きます。

下のチャートは成田空港のPIGOK 2 Departureという名前のSIDのチャートです。

NRT PIGOK 2 Departure. AIPより

成田のRWY16Rから離陸した飛行機はSIDの緑のルートに沿って飛行します。途中の KUJYUは11000以上、終点のPIGOKは20000ft以上で通過するように高度制限も付加されています。SIDの経路や高度制限は様々な理由で決定されています。到着機の経路や空域の関係、地域の騒音、地形などによってです。しかしフルに飛ばされることは少なめで、多くの場合は途中で管制官に「Proceed Direct PIGOK」(=今の場所からPIGOKに直接向かいなさい)と指示されます。

PIGOK以降は航空路に合流し、巡航高度に向けてさらに上昇を続けることになります。

航空路 Enroute エンルート

SIDの終点以降は航空路に合流して飛行を続けます。下図は航空路のチャート(=エンルートチャート)ですが複雑に張り巡らされています。先ほどの成田空港RW16LからSIDのPIGOK Departureで出発した飛行機はPIGOKから航空路Y50に合流します。下図の青線がSIDのPIGOK Departure、赤線が航空路のY50です。

ENROUTE CHART AIPより

航空路に矢印がついている航空路は一方通行という意味です。Y50も西向に矢印がついているので西行きの専用の航空路です。成田空港から伊丹空港など西日本の空港に向かう時はPIGOK Departureで離陸してY50に合流という経路をとっています。

航空路のアルファベットの頭文字のYはこの航空路がRNAV航空路であることを示しています。

RNAV航空路とは?

以前は航空路は地上にあるVORやDMEという航空機に向けて電波を発信する施設を結んで設計されていました。飛行機はVOR/DMEの電波を頼りにそこに向かって飛行し、到着したら次のVOR/DMEの電波を受信してそこに向かって飛ぶという方法でした。どうしても地上の施設の場所に影響されますし、施設の数にも限界があるので航空路はカクカクと折れ曲がったルートになっていました。

RNAV航空路はより効率的な飛行を可能にしている。

しかしRNAV航空路は航空路上の地点(=Waypoint)を緯度経度で設計できるので地上の制約を受けずに、航空路がなるべく直線的に効率的に飛行できるように設計することができます。航空機側も性能が上がり、GPSやVOR/DMEで自分の位置を正確に測位、計算できるようになったので緯度経度で決められたWaypointに向かって正確に飛行できるようになり、ほとんど全ての航空路がRNAVで設計されるようになりました。

非常に正確に飛行できるので、一方通行ではない航空路を反対向きに飛ぶ飛行機は真下か真上ですれ違ったりもします

例を上げると、新千歳空港から羽田空港のルートをVOR/DME航空路からRNAV航空路に変更することで13.7kmの短縮できたようです。

また日本全国で見るとこのRNAV化による燃油費削減の効果は年間で48億円にもなるそうです。

先ほどのエンルートチャートには頭文字がYのものしかありませんが、他にもM、Z、Tなどの頭文字から始まるものもRNAV航空路です。VOR/DMEによる航空路は頭文字がV、A、B、Gなどから始まります。

降下 Descent ディセント

巡航行動や空港によっても異なりますが、おおよそ着陸の30分前が降下開始の時間になります。

最初は航空路上で降下していきますが、その先には2つのフェーズがあります。それがSTARとApproachです。高速道路に例えると出口のインターチェンジの役割がSTARとApproachです。概略のイメージは下図の通りです。

航空路→STAR→Approach→着陸

STAR(Standard Terminal Arrival Route/標準到着経路)

「スター」と呼んでいます。航空路とアプローチの間をつないでいます。

成田を出発した飛行機は航空路Y50を西に進みその後Y564→Y56→Y54→Y546と航空路を乗り換えてKODAIというWaypointまで進みます。

成田→伊丹のKODAIまでの航空路 AIPより

そこから先はAirwayを離れてIKOMA EAST ArrivalというSTARに入っていきます。KODAIからIKOMAまで繋がるシンプルなSTARです。そのぶん直線的で混雑した時の交通容量は低いので、競合便がいたら手前から速度の調整を受けたり場合によってはMIRAIやABENOでHoldingすることもあります。

ITM IKOMA EAST Arrival AIPより

19〜21時は伊丹空港到着便の数が多いのでHoldingの指示がよくあります

Approach アプローチ

STARの終わりから滑走路まで続く最後の降下のフェーズです。速度を落としながらフラップやギアを出し着陸の最終準備へと移る忙しいフェーズになります。

アプローチ解説その1〜その4で解説したように大きく分けると4種類のアプローチを実施しています。

伊丹空港においてはIKOMAから先はILSでRW32L/Rに着陸することがほとんどです。下図がそのチャートです。滑走路から先に伸びて曲がっていく黒の点線はゴーアランド(着陸を途中でやめて再上昇すること)した際の経路です。

ITM ILS 32L AIPより

空港への到着

着陸 ランディング

着陸も離陸と同じく何度やっても緊張する場面です。同時にやりがいも感じます。お客様としては着陸時の「ドン」という衝撃でパイロットの上手い下手を判断されると思います。

もちろん間違いではないのですが、あくまで今まで紹介してきた数々のフェーズのうちのひとつです。でもパイロットも衝撃については気にはしています。それまでのフライトがどんなに上手くいっても最後の着陸で衝撃が大きければショックですし、逆にそれまでのフライトが上手くいっていなかっても着陸がうまくいけばなんとなくまとまったフライトに感じてしまうのも事実です。

経験的には小型機よりも大型機の方が着陸装置のショックの吸収がしっかりしてると感じます

ブロックイン

着陸し滑走路から出てたら到着ゲートまでタクシーします。これをブロックインと言います。出発時はブロックインと言ったりします。ブロックインの時にマーシャラーという方を見たことがある方は多いのでしょうか?パドルを振って飛行機に合図している人のことです。

飛行機を誘導するマーシャラー

しかし現在では大きな空港ではVDGS(Visual Docking Guidance System)という装置に変更されて行っています。マーシャラーは専門の職業ではなく地上の整備さんなどが行っています。そのためVDGSにすることによって整備さんの負担軽減になっています。

導入の進むVDGS

VDGSは機械で飛行機の場所を感知し、停止位置までの距離と左右のズレを画面で知らせてくれます。

海外の空港にもありますが、海外のマーシャラーの方は止まれのタイミングが日本のマーシャラーよりも急なので最後に慌てて止まるということが多いのでVDGSだとわかりやすいです。

ただ、左右のずれはパイロットの体感と違っていることもありますし、マーシャラーと呼吸があってピッタリ止まれた時はチームワークを感じられるので全てVDGSに変更になってしまうと寂しいものがあります。


このようなフェーズを経て1便1便の運航は進んでいきます。

最後までお読みいただきありがとうございました!またのご搭乗お待ちしております👨‍✈️

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