ハドソン川で救命ボートが開かなかったワケ

航空こぼれ話

みなさんこんにちは!エアライン機長のGOROです👨‍✈️

「ハドソン川の奇跡」はご存知でしょうか?2009年1月15日にニューヨークのラガーディア空港を離陸したUSエアウェイズ1549便がバードストライクで両エンジンが停止したため、ハドソン川に不時着水したものの乗員乗客全員が生還したためにハドソン川の奇跡と呼ばれている事故です。

この事故ではハドソン川に着水した飛行機の翼の上で救助を待つ乗員乗客の姿がテレビで繰り返し放送されたので印象に残っている方が多いのではないでしょうか??

ハドソン川に不時着水したUSエアウェイズ1549便

でもなぜ沈みゆく飛行機の翼の上で待っていたのでしょうか??救命ボートはなぜ使われることはなかったのか??

今回は飛行機に搭載されている救急用具について解説いたします!

航空法による分類

救命用具については航空法に決まりがあります。

航空法によって航空機に搭載しなければならない救命用具が定められているのです。航空法では機体の大きさや乗客数ではなく、その飛行機がどれくらい陸から離れて海上を飛行するかで搭載すべき救命用具が変わってきます。その場合分けは整理すると次の通りです。

陸から400マイル(740km)以上離れて飛ぶかどうかで変わってきます!

陸から遠く離れて飛ぶ場合

陸から400nm(740km)以上離れて飛ぶ場合の航空法で定める救命用具は次の通りです。

  • 非常信号灯
  • 防水携帯灯
  • 救命胴衣
  • 救急箱
  • 救命ボート
  • 非常食糧

400マイル(740km)とはだいたい東京〜広島や東京〜札幌間の直線距離に当てはまります。巡航速度で約1時間程度の距離です。これだけ陸地から離れる飛行は国内路線では存在しません。

海上を長く飛ぶ那覇路線でもどこかしらの陸地まで1時間あれば行けちゃいます。

陸から大きく離れて飛ばない場合

陸地から400マイル(740km)以内を飛ぶ場合の救命用具は次の通りです。

  • 非常信号灯
  • 防水携帯灯
  • 救命胴衣
  • 救急箱

先ほどの陸から遠く離れて飛行する場合と比べて、救命ボートと非常食糧がなくなっています。ここが陸から離れる場合と比較した場合の違いになります。

ハドソン川の事例では国内線で、陸から大きく離れる路線でないので救命ボートを積んでいなかったんですね!

救急用具のリアル

国際線の路線では陸から400マイル(740km)以上離れて飛ぶ路線が多いです。B737やA320といった小型ジェット機でも陸から400マイル以上離れて飛ぶような路線に投入される機材では救命ボートを搭載しています。

USエアウェイズのA320

国際線の中で400マイル(740km)以上陸から離れて飛ぶ路線は北米、東南アジア、オセアニア、グアムやハワイ路線があります。ヨーロッパ路線はずっとロシアなどのユーラシア大陸上を飛行するので救命ボート、非常食糧は搭載がなくても問題ありません。

実際のところは救命用具を毎回路線に応じて入れ替えるのは非効率ですので、陸から400マイル(740km)以上離れて飛行する可能性がある機材には、そうでない路線を飛ぶ時にも救命ボート、非常食糧は搭載したままで飛行しています。

ここからは救命用具それぞれについて見ていきます。

非常信号灯

これは車で言うところの発煙筒のようなものです。救援者に煙や炎を使って自分の居場所を伝えるためのものです。

防水携帯灯

懐中電灯のようなものです。着水の可能性を考慮して防水になっています。

救命胴衣

それそれの座席の下付近に収納しています。普段は真空パックのようにして小さく畳められていますので、使用時は圧縮空気で膨張させて膨らませます。緊急脱出の際は機内で膨らますと動きにくくなるので機外に脱出の時に紐を引いて膨らませてください。

小さいお子さん用の救命胴衣も搭載していて、緊急着水の時には乗務員が渡す手はずになっています。

救急箱

正直内容はあまり期待できません。簡単な応急手当てができる程度のものです。

非常食糧

初めて見た時はこれが1番がっかりの内容でした。搭乗者全員の3食分と決められていますが、カロリーメイト1本分くらいの量で3食分ということでした。あくまで生命維持に必要最小量といった感じです。

救命ボート

計算上は全員乗ることができます。飛行機によって違いますが、50人乗りくらいのボートがいくつかあります。大型機では脱出口から膨張するスライドが水上では救命ボートの役割をします。ただし50人で乗るには体育座りで足も伸ばせないような状況になります。

旅客機の脱出スライド Wikipediaより

簡易の屋根を展張することもできて日射を防ぐこともできます。中には小さな穴が空いた時の修理キットや水を排水するための折りたたみのバケツもあります。

ハドソン川に着水したA320のドアから膨張しているスライドは小型ジェット機の場合は救命ボートのように乗ることはできません。小型ジェット機では着水した後は救命胴衣を着て水中に飛びこんで救助を待ちます。スライドの中身は空気なので浮きにはなります。従って飛び込んだ後に浮いたスライドに捕まって救助を待つことはできます。ハドソン川の事例では真冬で気温マイナス6℃、水温2℃とうい状況だったので飛び込まずに翼の上で救助を待っていました。

A320ではスライドは展張しているがボートとしては使えない

小型ジェット機の場合は脱出用スライドは自動で展張しますが、救命ボートにはならないため、機内に収納してある救命ボートを手作業で機外に運び出すという作業が必要です。体験したことがありますが、なかなかの重さなので男性数名でやっとこさという感じでした。


乗務員はこれらの救命用具の使用について1年に1回訓練しています。

実際に使うことがないように祈りながらみんな真剣に取り組んでいます!

今回は飛行機に搭載の救命用具について航空法をもとに解説いたしました。最後までお読みいただきありがとうございました!またのご搭乗お待ちしております👨‍✈️

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